現在発行中の「Morning glory」編とは別ルートの(更に)番外編シナリオの一部をUPしました。
完全版(冊子)は通販かイベントで販売しております。
でもって18禁有りです。
『ゲシュペンスト-半影-』オーナー×カゼ編・(冊子版より一部抜粋)
まずわかった事は、この妖怪は無類の風呂好きだって事だ。
「また、ここか…」
俺のフロアはまだまだ工事中で、と言うか一人暮らしの男が暮らす生活空間の何倍も面積があるんで、とりあえず寝室、キッチンなどの居住分を済ませた後、神社の方の工事に入ったばかりだった。
こいつには下の21フロアをくれてやったので、好きに使わせていたが、俺のフロアではキッチンとダイニングを自分のスペースに決めたらしく、そこで何か作っているか…
「よくふやけないな…」
俺の部屋のシャワールームでシャワーを浴びているかバスタブに入っていた…
「本当は毎日沐浴するんだ。何年もしていなかったから」
その分をいま埋め合わせているってのか…
嬉しそうにバスタブから上半身を乗り出して、にこにこと笑っている。
白い長い髪はバスタブの中で決して絡む事はなかったけれど、窮屈そうだった。
新しいタオルを持っていってやると、喜んで受け取ってくれるのはなんとも可愛らしかったけれど、俺としてはもっと広い場所で話がしたかったし…もっとじっくりと見ていたい…とも思った。
なので、俺は提案をしてやった。
「デカイ風呂…作ってやるか?」
そこで、お前のフロアに…と言わなかったのは、そんなもの作った日には自分のフロアから出てこなくなりそうだったからだ。
「どうして?」
不思議そうにそいつは言った。
「だって必要ないだろ?」
「俺だって風呂入りたいんだよ」
「交代で入ればいいだろ?」
一緒に入りたいんだよ…と言うとへそをまげそうだったので、とりあえずもっともらしい事を言ってみた。
「お前は水風呂が好きだが、俺は熱いのにゆっくり肩まで浸かりたいんでね。デカイ風呂場にしたら、どっちも入れるだろ?」
「…そんなものなのか?」
「そうなの。日本人だから。日本人ったら温泉でスパだろ。打たせ湯に露天風呂、壁には富士山だろ?」
そんなんで、ふーんと感心してくれるってのは…本当に…扱いやすい奴だった。
そうして、放っとくとすっ裸で歩いて回っている奴に新しい服を出してやる。
「…この前のでいい」
「サイズあってなかったろ…」
俺も大概おおざっぱなので、言われたサイズで服を揃えてやったら、こいつはもっと適当だったので、全然デカイのばかりだった。
むっとした顔で着替えている今度のは、さすがにサイズもあっていたらしい。
ベルトをしなくてもジーンズがさがらない。
「新しいのより、洗ったものの方がいいのに…」
「だったら次からはさばを読むな」
まったく、俺が触って採寸した方がいいって…オンナの指輪かっての…
「…」
そう思って、俺はくすりと笑った。
そうだな。本気の恋愛くさくて、楽しかった。
笑った顔も、むっとした顔も可愛くって、家に戻ったときにはまずこいつを探して見つけてほっとする。
黙って座っていると、いつの間にか隣にいてくれる。
触れると鬱陶しそうに振り払うくせに、キスは拒まない。
こいつがいてくれるだけで、俺はもう逃げ出さない…ずっとここにいて、自分の出来ることをしよう、しなくてはいけないんだって思った。
それが、どれだけすごい事か…この甘ったれの妖怪は…知っちゃいないんだろうな。
今日もこいつの作ったメシを二人で向かい合わせで食べる。
「お前、本当に料理上手いよな」
俺の誉め言葉に不愉快そうな顔をする。
「…上手いんじゃない。記憶を読めば…」
「何言ってんだよ。手順が分かったから美味しいもの作れるってわけじゃない。
料理ってのは気持ちが無いと美味くなんてならないんだ」
ぽかんとした顔でこっちを見ている。
「お前は、俺に、美味しい料理を、作ってやろうって思って作ってくれたんだろ?
だから美味しいんだよ。
それを上手いって言うんだ」
何しろ、俺はずっと一人メシだった。
高いメシも食ったけど、今ここでこいつを前に食べるメシの方がずっと何倍も美味しかった。
ここに、俺のために料理を作ってくれるモノがいる。
何て幸せなんだろう…そう思った。
「…そんな風に…思った事なかった…」
そう言ってそいつは下を向いてしまう。
「…」
「何?」
消えそうに小さい声…
「…ありがとう…」
耳まで真っ赤にして、ようやっとそいつ…カゼは言ったので、泣き出す前にキスをした。
俺は毎日が幸せでたまらなかった。
そう
罪悪感がわいてしまうほど…
「あーあ… やんなるね」
一歩ビルから出ると、そこは開発途中でうち捨てられた街のままだった。
懐かしいものは何も残っていなくて、新しいものも中途半端だった。
街は死ぬ事も、生きる事も出来ない状態だった。
「…俺の…せいかねー…
ま、それ以外ないか…」
逃げ出したツケを払うにしても、街は大きくて、どこから手をつけたらいいのか…俺は途方に暮れていた。
「ん?」
ふかした煙草の煙が、ゆったりと夕焼け空へと流れていった。
それが不自然に一定の方向に流れていく。
眉をひそめたものの、それは俺の独り言への『返事』または『要望』だった。
「仕方ないなあ。とりあえず…そこから行くかあ…」
俺はぐるりとビルを回って、奥へと入っていった。
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